Paper Mill:学術出版に新たな論文不正
2021-03-15

Paper Mill:学術出版に新たな論文不正

Paper Millという言葉を耳にしたことはありますか?ここで話題にするのは、製紙工場ではなく、もっとタチの悪いものです。学術出版におけるさまざまな不正行為が摘発されていますが、「論文工場」とも揶揄される「論文代筆業者(Paper Mill)」による論文の量産に対する疑惑が浮上しています。学術研究の出版履歴は、研究者としてのキャリアアップ、テニュア(終身雇用資格)獲得、さらに将来の研究プロジェクトへの資金調達にも多大な影響を及ぼします。少しでも多くの論文を出版しなければとのプレッシャーが、研究者を架空の研究論文を購入して出版するといった不正な行動に追い込んでしまうことがあります。データの改ざ

論文の公表は焦らず慎重に
2021-03-10

論文の公表は焦らず慎重に

近年、学術論文の公開スピードが以前よりも速まっています。学術出版における電子化や、オープンアクセスの拡大、プレプリントサーバーの利用などに後押しされ、研究者は新しい研究結果を少しでも早く公開しようとしています。重要な成果は、研究者間で共有されたり、一般公開されて共有されたりしていますが、特に新型コロナウイルス感染症に関する研究では、一刻も早く研究結果を発表することがこの感染症の治療・感染防止に役立つと同時に、研究の重複を防いで効率化を図ることにもつながるため、公開が急がれています。 研究論文の出版を急ぎたい理由は人それぞれでしょう。短期間で出版リストを充実させるチャンスと捉える研究者や、現状で

否定的な結果をジャーナルに投稿する/しない?
2021-01-27

否定的な結果をジャーナルに投稿する/しない?

「失敗は成功の元」と言われますが、多くの技術研究は、初期段階での失敗を乗り越えて進められてきました。曖昧さのない仮説に基づいてよく考えられた実験であっても、結論がでなかったり、否定的な結果になったりすることがあります。にもかかわらず、研究コミュニティは肯定的な結果、つまり成功事例だけを快く受け入れがちです。Daniele Fanelliという研究者が、さまざまな分野の論文を掲載している学術雑誌(ジャーナル)の4000以上の論文を分析した結果、肯定的な結果が出版されている傾向が強く示されました。これでは、科学的客観性がリスクにさらされているとも言えます。良い結果でなければ出版できないとなれば、科

ハイブリッドOAはダブルディッピングか
2019-09-30

ハイブリッドOAはダブルディッピングか

読者から購読料を徴収する従来の定期購読式の学術雑誌(ジャーナル)とは異なる出版形態である、オープンアクセス(OA)ジャーナルが広まっています。OAジャーナルは、購読料をとらずに掲載に必要なコストを回収するため、論文掲載料(Article Processing Charge : APC)を論文執筆者から徴収しています。OAジャーナルの新たな類型として存在を増しているのが ハイブリッド・ジャーナル 。これは、定期購読式のジャーナルが一部のコンテンツを無料で公開する、あるいは著者が投稿論文を出版する形式として従来の定期購読式かOAのいずれかを選択するという形態です。ハイブリッド・ジャーナルの場合、論

論文の自主撤回は研究者の経歴にマイナスか?
2019-07-08

論文の自主撤回は研究者の経歴にマイナスか?

自分の研究の間違いに気づいた時、沈みこむような思いを感じた経験はありますか?例えば、実験を続けてきたサンプルのラベルに付け間違いが起こってしまい、細胞株が想定していたものとは異なっていたとしたら・・・・・・既に論文にして発表した実験の結論は、正しくなかったことになります。まったく想定外のこととは言え、自分の研究成果が学術界を意図せずミスリードしてしまうだけでなく、自分の実験を再現するために他の研究者の時間と労力を無駄にさせてしまうことになることでしょう。さらなる悪影響が生じる前に、論文を自主的に撤回しますか?論文を撤回すると、誤った研究結果を発表したことが学術界の知るところとなるほか、研究者と

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-後編
2018-01-12

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-後編

本記事の前編で、盗用・剽窃の定義や、他人の文献を引用する際のコツをご紹介しました。しかし、研究者が注意しなければならない盗用・剽窃は、単なる文字のコピーに限りません。後編では、盗用・剽窃と捉えられかねない、直接引用と間接引用、パッチライティングについて見てみます。■ これも盗用・剽窃?-直接引用と間接引用 他人の文章を、それが他人の文章であることを示すことなく書き写すことさえしなければ問題にならないと思いがちですが、盗用・剽窃とは「テキスト」のコピーだけではありません。他人の発想や考え方、データをコピーすることも含まれます。そもそも文章とは発想や考えをまとめたものであるため、その「考え」自体を

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編
2017-12-27

論文の盗用・剽窃を避けるコツ-前編

研究論文を書く時、文献を集め、自説を裏付けるエビデンスを揃えるのに苦心される方が多いのではないでしょうか。既存の考えや価値観を参考にしつつ、的確な所見を加えることは大切ですが、その時、盗用や剽窃(ひょうせつ)の間違いを犯さないように注意しなければなりません。 盗用・剽窃とは、他人の文章や考え方を許可なく使用あるいは部分的に使用し、自分のものとして発表することです。意図的かどうかを問わず、適切な手続きを取らずに引用されたことをいい、自分自身の過去の論文等の利用も含みます。盗用・剽窃は、学術的かつ倫理的に重大なルール違反です。発覚すれば、論文の撤回や執筆者の信用失墜を招きかねません。 近年の学術出

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(後編)
2017-10-13

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(後編)

前編では、カナダのオタワ病院研究所の疫学者デーヴィッド・モーハーらが捕食ジャーナルに掲載された論文の「責任著者(corresponding author)」の所属国を調査した結果、最も多かったのがインド、次がアメリカであったことなどをお伝えしました。後編では、論文著者たちの捕食ジャーナルに対する認識と、捕食ジャーナルの特徴について見てみましょう。 モーハーらは、捕食ジャーナルで論文を発表した著者たちが所属する研究機関の責任者16人を選んで問い合わせのメールを送りました。「著者たちに警告した」、「対策を検討している」などと返信してきた研究機関もあれば、返信がなかったところやメールが戻ってきてしま

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(前編)
2017-10-06

「捕食ジャーナル」で誰が論文を発表しているのか?(前編)

本連載では、どんなにひどい原稿でも、掲載料さえ払えば査読らしい査読なしで掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」について、何度も取り上げてきました。最近では、「フェイク・ジャーナル(fake journals)」と呼ばれることもあります。 捕食ジャーナルで研究成果を発表する者たちは、主としていわゆる開発途上国の医師や研究者だと思われてきました。実際のところ、そうした捕食ジャーナルに投稿される論文の著者がインドなどのアジアに集中することを明らかにした調査もあります。ただ筆者は「日本人も少なくないのではないか?」と思ってきました。 カナダのオタワ病院研究所の疫学者デ

捕食出版社、生涯教育にも進出
2017-06-23

捕食出版社、生涯教育にも進出

本連載では、掲載料さえ払えばどんなにひどい原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」や、登録料さえ払えば誰でも「講演者」として発表させてしまう「フェイク・カンファレンス(fake conference)」について書いたことがあります。とりわけカナダの『オタワサン』や『オタワシチズン』に寄稿する記者トム・スピアーズによる調査活動を紹介してきました。 スピアーズは、捕食ジャーナルの出版社として知られるインドのA社が倫理学分野のジャーナル(学術雑誌)を発行していることを知り、昨年秋、アリストテレスの文章を盗用したうえで、それに手を加えてつくったデタラメ

臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開
2016-04-05

臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開

臨床試験の結果の公開には2つの方法があります。1つはいうまでもなく、ジャーナル(学術雑誌)で論文として出版(publish)することです。もう1つは事前に臨床試験のデータベース「ClinicalTrials.gov」に登録し、その結果を報告(report)することです。 ClinicalTrials.govは、アメリカの国立衛生研究所の国立医学図書館(NLM)が運営する世界最大の臨床試験のデータベースで、臨床試験とその結果を登録することを奨励しています。現在、ClinicalTrials.govには世界170カ国以上から約20万件の臨床試験が登録されています。一方で、これまでの調査により、実施

研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある
2016-03-07

研究成果の「誇張」は、プレスリリースにもある

研究 成果において、科学や医療に少し詳しい人であれば、新聞やテレビ、ネットメディアのニュースが正確ではなく、しばしば結果を「誇張」していることに気づいていら立ったという経験があるでしょう。その責任は誰にあるのでしょうか? 記者でしょうか? それとも科学者でしょうか? カーディフ大学の心理学者ペトロク・スンナーらは、2011年にイギリスの主要な大学20校が出した、生物医学や健康に関係する科学研究についてのプレスリリース462本と、そのもとになった査読付き研究 論文、そして全国紙の記事668件を分析しました。スンナーらは、「誇張」には3つのタイプがあることに注目しました。第1に、読者に対して行動を

論文のエラー訂正や撤回について統計学者が苦言
2016-02-24

論文のエラー訂正や撤回について統計学者が苦言

論文 のエラー訂正や撤回について、アラバマ大学の生物統計学者デーヴィッド・A・アリソン氏は苦言を呈しています。それは2014年夏、同氏がファーストフードを食べることが子どもの体重にどれだけ影響するかを評価した論文を読んでいたところ、ある数理モデルを応用したその分析は影響を10倍も過大評価していることに気づきました。肥満の専門家でもある同氏は、同僚らとともに問題点をまとめて、その論文が掲載されているジャーナルの編集部に書簡を送りました。数カ月後、書簡の主張は受け入れられ、その論文は撤回されたといいます。 アリソン氏らは、そのようなエラー(ミス、間違い)が自分の専門分野のほかの論文でもあるかどうか

研究論文が却下される10の理由(3)
2015-06-27

研究論文が却下される10の理由(3)

本ブログでは、論文が却下される10の理由を考えていますが、本日はその第3回です。今回はよく見落としがちな点を2つあげてみました。7. 研究結果と研究者の利害関係は? 研究の規模や影響力が大きくなればなるほど、いろいろな所から助成金が集まってきます。研究者として、主観や私的利益を廃し、限りなく論理的に研究をデザインし、結果を分析するのは当たり前のことです。しかし、たまたまその結果が、助成金を出してくれた会社に好意的な結果となった場合、ジャーナルの編集者や査読者の猜疑心をあおることになります。こうした問題は「助成金を出してくれた団体の会長が、 ある製薬会社の重役も兼任していた」など、助成金にはあま

研究論文が却下される10の理由(2)
2015-06-24

研究論文が却下される10の理由(2)

本ブログでは、論文が却下される10の理由を4回に分けて考えています。今回はその第2回。もう少しテクニカルな側面を考えてみたいと思います。4. 統計があればいいというわけではない専門分野によって差があるとはいえ、昨今、統計的な調査結果を使わない論文は少なくなってきました。統計的な調査結果がない論文は主観的だと思われる傾向があるからでしょう。しかし、統計的有意差がみられたからといって、論文の信用性が上がるわけではありません。逆に、本当はよい研究でも、不用意な統計の使い方によって信用性を失う場合もあり、それだけの理由で査読者から低い評価を受けることがあります。 統計的な調査結果を使用する場合は、使用

研究論文が却下される10の理由(1)
2015-06-17

研究論文が却下される10の理由(1)

研究のデザインから投稿まで、寝る暇も惜しんで書き上げた論文。それが「残念ですが…」という型通りの手紙といっしょに却下されてしまうと、本当にガッカリしますね。でも、名誉挽回のチャンスはそのときにこそあります。研究自体に欠陥があったのか、それとも発表の仕方に問題があったのか? それがわかれば、次の投稿では採択される可能性を高めることができます。 本コーナーでは、これから4回に分けて論文が却下される10の理由を紹介します。論文の出版をあきらめる前に、もう一度見直してみてください。1. ジャーナルの投稿規程を確認しましたか? 論文を投稿するさい、郵便を使う場合でもメールを使う場合でも、ほとんどのジャー

盗用 を防止するための編集者の役割
2015-05-20

盗用 を防止するための編集者の役割

第2言語としての英語で執筆する論文著者は、英文校正者を雇う場合がよくあります。そうした論文を担当する編集者(エディター)や英文校正者がよく体験する問題として、こうした論文著者は他人が発表した論文から文章を抜き出して、それをそのまま自分の論文に取り込んでしまうケースがあります。こうした第2言語としての英語で論文を書く著者たちが、なぜ盗用をしてしまうのか? それについては、MacDonnell が優れた概論をまとめています(参考資料1)。西側諸国とそれ以外の諸国では文化的な違いがあることは明らかで、英語を第2言語として書いている著者の多くは、言葉を少し拝借しても、大した問題とは考えていないのではな

研究論文での盗用を未然に防ぐには?
2015-05-15

研究論文での盗用を未然に防ぐには?

現在、学術出版界における重大な問題となっており、研究論文撤回の大きな理由の1つとなっている“盗用”。2014年に日本で大きな騒動となった「STAP細胞事件」においても、問題となった論文の一部に別の論文からのコピー&ペーストが疑われたほか、当該の研究者が大学院生時代に書いた博士号でも大量の盗用が見つかったことが大問題になりました。すでに確立されているアイデアや数値に基づいて論文を書くことは大事なステップですが、盗用に陥らないように慎重に作業をしなければなりません。 世界では、論文の正当性を証明するさい、ある語句やアイデアの引用元を示すことが必要とされないケースが存在します。しかし、「引用」という