医学研究報告の透明性確保ガイドライン6選
2020-09-02

医学研究報告の透明性確保ガイドライン6選

2020年6月、医学雑誌に掲載された新型コロナウイルス感染症に関する論文の撤回が注目されました。その主たる理由は、データの信憑性に疑問が持たれたこと。この論文は、査読を経て発表されましたが、公開後に研究者から公開質問状が提出されて撤回に至り、世界中が新型コロナウイルス感染症の治療薬やワクチンを一刻も早く市場に出そうと研究を進める中で衝撃的なニュースとなりました。しかし、論文が撤回されても、一度公開されてしまった論文の内容がメディアなどを通じて拡散され、予期せぬ影響を及ぼす危険性は残ります。データの透明性確保は国際医学雑誌編集者委員会(ICMJE)のデータ共有ポリシーにも明記されていますし、人の

学術出版にゴースト(幽霊)出没?!
2020-04-24

学術出版にゴースト(幽霊)出没?!

学術出版において「ゴーストオーサー(幽霊著者)」が増えていると言われています。ゴーストオーサーとは、オーサーシップ(著者資格)を持っているのに著者として名前が論文に記載されない研究者のことです。研究論文の執筆において重要な貢献をしたにも関わらず、著者としては除外される「姿が見えない」研究者がゴースト(幽霊)になります。オーサーシップについては、国際医学雑誌編集者会議(ICMJE)および学術出版社/学術雑誌(ジャーナル)がガイドラインを設けており、発表論文には研究に関わった研究者全員、オーサーシップを有しているすべての人を著者として記載しなければならないと定めています。ガイドラインでは著者の責任

研究の事前登録は是か非か
2020-01-10

研究の事前登録は是か非か

学術、特に学術出版の世界は、この数十年の間に多くの変化に見舞われました。デジタル化の波に押され、学術雑誌(ジャーナル)の購読料問題やオープンアクセスへの流れなどが大きく取り上げられていますが、研究論文の中身についても、第三者や自分自身の研究結果を再現しようとして失敗する「再現性の危機(Replication Crisis)」や、研究結果に不都合な傾向が見られた場合に報告されない「出版バイアス(Publication Bias)」などが、対処すべき深刻な問題として挙げられています。今、これらへの対応策として研究者の間で広がりつつあるのが、研究の 事前登録 (Pre-registration)です

被験者に関する倫理問題
2018-11-12

被験者に関する倫理問題

研究の遂行には、動物あるいは、ヒトを対象とする実験が欠かせない場合もあります。生体実験を行う際に問題となるのが、「 研究倫理 」です。例えば、ある特定の病気を研究しているような場合、その治療法や治療薬が本当にヒトに有効なのか――動物実験で有効性が確認されたとしても、どこかで必ずヒト(人)での実験を行う必要が出てきます。実験に参加する人は、被験者あるいは研究対象者と呼ばれますが、実験である以上、すべての人によい結果がもたらされるとは限りません。そのため、実験に参加してもらう場合には、正確かつ十分な説明を行い、本人の意思による同意を得ておかなければならないと決められています。しかし、時に、研究者が

「再現性の危機」解決への新アプローチ
2018-09-06

「再現性の危機」解決への新アプローチ

科学研究において「再現性」は、基本中の基本です。誰がその研究を試みても同様の結果を導くことができなければ、成果を信頼してもらうことは難しいでしょう。2014年に話題になったSTAP細胞。「STAP細胞はあります」との発言が記憶に新しいですが、他の研究者が論文に書かれた通りの方法で実験を行っても、STAP細胞の存在を確かめることはできず、最終的にnatureに投稿された論文も撤回された――。このように、再現性がない研究は認められないのです。実は、別の研究者あるいは論文の著作者本人が、論文に書いてある通りの方法で実験をしても同じ結果が出ないことは、しばしば問題となり、この「再現性の危機」が、科学界

知的財産権-研究者が知っておくべきこと
2018-07-23

知的財産権-研究者が知っておくべきこと

知的財産権とは、発明、文学作品、芸術作品、画像、シンボルマークなど、知的創造活動によって生み出された無体物を財産として専有できる権利です。この権利により、知的創造活動の成果から利益を得ることが認められると同時に、他人が不当に「財産」を使用することを防ぐことができます。研究者にとっては、自分の成果を守ると共に、他者の成果を侵害しないためにも押さえておくべき内容です。知的財産権がどう研究活動に関わってくるのかを見てみましょう。■ 知的財産と知的財産権国によって知的財産に含まれるもの、知的財産を管理する法および監督官庁は異なります。日本の場合、知的財産権は、次の2つに大別されます。 著作権およびその

「再現性の危機」に対応するための「チェックリスト」
2018-05-21

「再現性の危機」に対応するための「チェックリスト」

以前、本誌では、『ネイチャー』誌が2016年に研究者たちをアンケート調査したところ、回答者1576人のうち70%以上が、ほかの研究者の実験を再現しようとしたが失敗した経験がある、と答えたことを紹介しました。このように、論文に書かれている通りの方法で実験を行っても、結果を再現できないことがしばしばあるという現状は「再現性の危機(reproducibility crisis)」と呼ばれています。 今年4月18日付『ネイチャー』誌の社説は、同誌が論文原稿を投稿する著者たちに、すべての項目を満たすよう求めている「 チェックリスト (Statistical parameters)」が「正しい方向への第一

論文掲載への報奨金は学術界にプラス?マイナス?
2018-05-01

論文掲載への報奨金は学術界にプラス?マイナス?

2017年9月、中国政府による論文掲載への報奨金制度が明らかになりました。中国人科学者の発表論文数が急増した背景に、多くの研究者がScienceやNatureなどの著名な国際学術ジャーナルに論文が掲載された際に報奨金を得たことが発覚。金銭目的に投稿される論文の信頼性や中国の科学全般の公正さについて、疑念を持つ声が上がりました。実際、査読過程で不正が見つかった論文が、多数取り下げられたこともありました。 しかし中国の他にも、カタールや台湾、オマーン、そしてアメリカなど多数の国の研究機関が、論文を発表した研究者に報奨金を支払っています。研究者にとっては研究資金を得ることができ、大学や研究機関にとっ

海賊版論文公開サイトは学術出版モデルを変えるのか
2017-11-24

海賊版論文公開サイトは学術出版モデルを変えるのか

大手学術出版社のエルゼビアが2017年6月、ある裁判に勝訴しました。相手は、Sci-Hub(サイハブ)およびLibGen(ライブラリー・ジェネシス)という、出版社のサイト以外から学術論文を無料で閲覧できる、いわゆる「海賊版論文公開サイト」。彼らが著作権を侵害しているとして、学術出版会の大手が統制に動き始めたのでした。学術出版の仕組みをも揺るがしかねないこの問題に密着します。 ■ 学術出版はオイシイ商売か 学術出版業界を俯瞰すると、特殊なビジネスモデルであることがわかります。学術論文は研究者によって執筆・投稿され、ボランティア研究者による厳しい査読を通り抜けた後に、学術ジャーナルに掲載されます。

300ドルであなたも論文の共著者に
2017-09-27

300ドルであなたも論文の共著者に

本連載では、掲載料さえ払えば、どんなにいい加減な原稿でも論文として掲載してしまう「捕食ジャーナル(predatory journals)」やそれを発行する出版社「捕食出版社(predatory publisher)」のことをたびたび取り上げてきました。そうした出版社やジャーナル(学術雑誌)をまとめてリストアップした「ビールズ・リスト(Beall’s List)」もあったのですが、2017年1月に閉鎖されてしまったことも伝えました。 インドのIT企業に勤める研究者で、医療ライターでもあるプラヴィン・ボージートは、この捕食出版という問題に興味深い角度から疑問を投げかけました。研究に何も貢献していな

オーサーシップが論文撤回を引き起こす?
2017-08-18

オーサーシップが論文撤回を引き起こす?

オーサーシップが論文撤回を引き起こす?-倫理規定遵守の重要性論文を執筆し、発表することは研究者のキャリアにとって重要です。研究者としての業績は、学術論文の内容(質)と発表数(量)に左右されると言っても過言ではありません。同時に、著者および編集者が論文執筆や出版における倫理規範を守ることも大切です。 近年、急激なITやインターネットの普及によって、過去にはあり得なかった不正や倫理違反がはびこるようになってきました。論文出版における不正にはいろいろありますが、大きくは①研究捏造(図の不正操作も含む)、②剽窃(他社の論文のアイデアやデータなどの無許可掲載)、③利益相反(経済的な利益享受や客観性が損な

研究不正を行った研究者が死刑に!?
2017-07-07

研究不正を行った研究者が死刑に!?

本ウェブサイトの記事「中国が学術不正防止に本腰」でも指摘されているように、日本やアメリカだけでなく中国でも、研究不正が問題になっています。『科学・工学倫理(Science and Engineering Ethics)』に掲載された最近のある調査では、中国の研究者らによる生物医学分野の論文のうち約40パーセントに、研究不正が含まれると推測されました。また本連載でも紹介したように、最近、中国の研究者たちによる論文107件が撤回されました。「偽装査読(フェイク査読)」がなされていたことがわかったからです。 こうした状況に中国の当局も手をこまねいているわけではありません。例えば、予算を拠出する機関は

「フェイク査読」が発覚したジャーナルは編集委員もフェイク!?
2017-06-16

「フェイク査読」が発覚したジャーナルは編集委員もフェイク!?

本誌では以前、「偽装査読」あるいは「フェイク査読」と呼ばれる不正行為の実例を紹介しました。そのなかで今年4月、大手学術出版シュプリンガー社が、同社が発行するジャーナル(学術雑誌)の1つ『腫瘍生物学(Tumor Biology)』に掲載された論文107件を、 フェイク査読 を理由に撤回したこと、そのことにはフェイク査読をコントロールしている業者が関係しているらしいことを紹介しました。 学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』によれば、『腫瘍生物学』は、論文の撤回数が最も多いとされている学術ジャーナルであり、しかも今回の撤回は、2015年、2016年に行われた大規模な論文撤回に続く3回

査読システムを欺き、自分の原稿を自分で査読!?
2017-05-26

査読システムを欺き、自分の原稿を自分で査読!?

本連載では、どんないい加減な論文でも掲載料さえ払えば載せてしまう「捕食ジャーナル」や、どんないい加減な発表でも参加料さえ払えば発表させてしまう「フェイク・カンファレンス」を取り上げてきました。今回は、ジャーナル(学術雑誌)の査読システムを欺いて、著者が自分の原稿を自分で査読してしまう「偽装査読(peer review rigging)」の例を紹介します。「フェイク査読(fake peer review)」などと呼ばれることもあります。 2012年、『酵素阻害および医薬品化学ジャーナル(the Journal of Enzyme Inhibition and Medicinal Chemistr

中国が学術不正防止に本腰
2017-05-17

中国が学術不正防止に本腰

学術不正はどの国でも問題ですが、中国の研究者による学術不正は根が深く、中国国内には不正を補助するビジネスが成り立っているとの話や、査読欺瞞まで横行しているとの噂すら聞こえてきます。最近では、2016年3月に英国の出版社が撤回した論文43件のうち41件が中国からのものでした。さらに2017年4月には、学術出版大手のシュプリンガー・ネイチャーが107件もの中国の論文掲載を取り消し、話題となっています。これは数も多かったからか、中国国内でも問題視され、学術不正に関する記事が新聞やテレビで取り上げられました*1,2。 このような事態に至り、中国の学術界や政府もようやく重い腰を上げて、対策に乗り出したよ

「責任ある研究活動」のために諮問委員会を
2017-04-21

「責任ある研究活動」のために諮問委員会を

英語圏では、研究不正の防止に向けた取り組みについて、深い議論が続いています。 2017年4月11日、アメリカの有力な学術団体「米国科学・工学・医学アカデミー(NASEM: The National Academy of Sciences Engineering Medicine)」は、研究不正防止に向けた提言をまとめた報告書『研究公正の育成(Fostering Integrity in Research)』を公表しました。 報告書をまとめたのは同アカデミーの「科学・工学・医学および公共政策・グローバル問題に関する委員会」の「責任ある科学に関する委員会」です。284項におよぶ報告書には、11項目

研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査
2017-04-07

研究不正の件数はもっと多い? 英BBCが調査

研究不正(research misconduct)の件数は、公式に認定されているよりもずっと多いかもしれません。イギリス放送協会(BBC : British Broadcasting Corporation)が独自調査の結果を3月27日に報じました。 イギリス議会には上下両院に科学技術委員会(Science and Technology Committee)が設置されていますが、下院科学技術委員会は今年1月、同国の立法支援機関である議会科学技術室で研究不正が問題視された(POST note、2017年1月 No.544)ことを受け、研究不正に関する調査を開始しました。同委員会のスティーブン・メ

研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得
2017-03-17

研究不正が発覚した研究者でも、多額の助成金を獲得

一般的には、研究不正(データの捏造、改ざん、盗用など)が発覚した研究者は、研究の世界から追放されると思われているかもしれません。しかし、2017年1月に発表されたある調査では、研究不正が発覚し、何らかの制裁を受けた後であっても、研究を続けているだけでなく助成金を獲得し続けている研究者が少なくないことがわかりました。 米国イリノイ大学の研究公正官−−アメリカでは、研究機関には研究不正に対応する職員「研究公正官」を配置することが義務づけられています*¹−−カイル・ガルブレイス(Kyle L. Galbraith)は、1992年4月から2016年2月までの間、アメリカの政府機関「米国研究公正局(OR

臨床試験の結果をシェアしていないのは誰だ?
2017-03-10

臨床試験の結果をシェアしていないのは誰だ?

以前、本誌「臨床試験の結果、いまだ半分以上が未公開」でも紹介したように、実施されたはずの臨床試験の結果のうち約半数ないし半数以上が公開されていないことが問題になり続けています。2016年8月には、子どもを対象にした臨床試験のうち半数近くが、途中で中止されたか、完了しても公表されていないことが新たに明らかになりました。 「臨床試験」とは、被験者、つまり生きている人間を使って、新薬や医療機器の有効性や安全性を検証することです。したがって、その結果が公開されていないということは、医師や患者が治療方法を決定する際に参考になる情報があるにもかかわらず、それらを参照できないことを意味します。 2016年1

複数筆者の中で偉いのは?
2017-03-07

複数筆者の中で偉いのは?

学術論文には、通常複数名の著者がいます。近年、専門分野の境界線や国境を越えて新しい共同研究が行われ、複数の著者による共著の論文数が増加してきました。これにより、共同研究者の役割を適切に記載することが大きな課題となっています。 学術出版物において研究者が担う役割には、実験の設計・実施から、データの分析や論文の執筆まで、多岐にわたります。論文作成にあたり「最も貢献度の高い研究者」が筆頭著者となり、「最も高く評価される」というのが伝統的なあり方ですが、第二筆者以降の役割はあまり定義されていません。多くの研究分野では、最後に記載されている著者が、その研究の実施を管轄した人だと見なされ、筆頭著者と同程度

査読者が査読対象を盗用 − 「著者にとって最悪の悪夢」
2017-02-10

査読者が査読対象を盗用 − 「著者にとって最悪の悪夢」

学術情報のニュースサイト『リトラクション・ウォッチ』は、毎日、学術界にとってはあまりうれしくない情報を発信していますが、その同誌が「著者にとって最悪の悪夢」と呼ぶ事態が起きたようです。 2015年6月、タフツ大学メディカルセンターのマイケル・ダンジンガーらは、5年かけて実施した研究の結果を原稿にまとめて、『内科学紀要(Annals of Internal Medicine)』に投稿しました。しかし、その原稿は査読者によって却下されました。ダンジンガーは自分の論文がほかの研究者たちの論文で引用されていないかどうかを探していたとき、『EXCLIジャーナル』に、自分たちの原稿とほとんど同じ内容の論文

否定的な結果 をもっと公表しよう
2016-11-15

否定的な結果 をもっと公表しよう

科学や医療の世界では「否定的な結果」が公表されない傾向にあることが問題になっています。「否定的な結果(negative results)」とは、研究者たちの仮説をサポートすることに失敗した研究結果のことです。「否定的な知見(negative findings)」ともいいます。 本連載では以前、実施された臨床試験の結果が半分以下しか公表されていないという調査結果を紹介したことがあります。その理由の1つとしては、公表されない結果のなかには「否定的な結果」もあり、研究者やスポンサーがそれらを公表することに積極的になれないことも考えられます。 生物医学のニュースサイト『STAT』は、この問題を次のよう

再現性確保のため、研究不正に対する取り組みを
2016-10-04

再現性確保のため、研究不正に対する取り組みを

ある研究結果について、「再現性があるかないか?」ということと、「研究不正があるかないか?」ということは、まったく別のことです。再現性がなくても、そのことは必ずしもその研究に不正(捏造、改ざん、盗用など)があることを意味しません。単に確認が不十分であったからだとも考えられます。 しかしながら、「再現性のなさ(irreproducibility)」の原因として、研究不正は無視できない一因であるということを、コロンビア大学の名誉教授で精神医学を専門とするドナルド・S・コーンフェルドらは今年8月31日付の『ネイチャー』に寄稿した「研究不正を無視するのをやめよう」という論評で強調します。再現性のなさは、

システマティック・レビュー にもレビュー(再評価)を
2016-09-06

システマティック・レビュー にもレビュー(再評価)を

ある課題についてこれまでに書かれた論文をすべて集めて、そのデータを批判的に読み込んでレビュー(再評価)し、一定の結論を出す研究を「システマティック・レビュー(systematic review)」といいます。日本語では「系統的レビュー」ということもあります。医療分野では、「根拠にもとづく医療(EBM: Evidence based medicine)」という方針において、最も信頼性の高い情報源となりうる研究方法です。 ところが、システマティック・レビュー論文のなかには、捏造や改ざん、盗用といった「不正行為」がある論文や、製薬企業などスポンサーとの関係があること(利益相反)を明記しておらず、バイ